月別アーカイブ: 2017年11月

ちょっとした遊び

NHK文化センター 柏教室のHさんの作品をご紹介致します。
Hさんは最近仕上げにチャレンジし始めたのですが、蒔下の
弁柄漆の塗り方がお上手なので、とても綺麗な仕上がりになって
います。


少し深さのあるお皿の縁が3か所欠けていました。
銀泥で仕上げられていますが、これはいずれ硫化して釉薬に馴染む
ことを計算されています。

同じお皿の欠けなのですが、こちらは大半が裏面だったので、あえて
金泥で仕上げられました。
白系の釉薬の場合は金泥が合うことが多いので、この選択は正解だと
思います。
表面と合わせる必要はないという柔軟な考え方の仕上げとなりました。

こちらも柔軟な考え方の仕上げです。
器の内側はしっかりニュウが入っているのがわかったので仕上げられましたが、
外側は仕上げられませんでした。
これは外側の釉薬がザラザラで、ニュウが目立たなかったからです。

よくお話しているのですが、仕上げはお好みです。
欠損が埋まった時点で使用上は問題がなくなっているので、仕上げと
言っているのはお化粧です。
ですので一応のセオリーはあるものの、従わなければならないものは
ありません。

どうぞHさんのように柔軟な発想で考えてみて下さい。


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金泥が銀泥に!

先日、あるカルチャーセンターで不思議なことがありました。
金泥で仕上げられたものが、途中で銀泥に変わってしまったというのです。

よくよくお話を聞くと、どうやら蒔筆に問題があったようです。
今回仕上げをする前に銀泥で仕上げをされていたのですが、それが蒔筆に
残った状態で金泥の仕上げをされたご様子なのです。
仕上げの工程を進めているうちに蒔筆から銀泥が出てきてしまい、金泥の上に
乗ってしまったのが原因と考えました。

蒔筆は金泥と銀泥で兼用しても構いませんと、ご説明しています。
しかしこれには条件があります。
毎回使った泥粉をしっかり払い落とさなければなりません。

どう払い落すかというと、楊枝などの先が細いもので蒔筆の穂先を
通したり、振ったりします。
これはなかなか言葉では表現しづらいので、教室で実演致します。

とはいえ根本的にご不安な方は、蒔筆を金・銀で別にするのがいいかも
しれません。
ちなみに私は分けています。
これは同時に金・銀の仕上げを行うことがあるからです。

ご自分の作業スタイルに合わせて、ご検討下さい。


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一足先に

先日予告しました「手づくり手帖 初冬号」が一足先に
手元に届きました。

掲載されているのは〝手の人〟という作家のものづくりへの想いや、
創作のポリシーをインタビューしたコーナーです。
前半は私が金繕いに辿りつくまでの道のりが書かれており、後半は
金繕いの魅力について解説して下さっています。

道のりについては出版後かなりご質問を頂いたのですが、原先生からの
アドバイスもあって、あまり詳しくお話していませんでした。
それを今回の記事で思い切ってお話しています。

また金繕いの魅力についても、とてもわかりやすく書いて下さって
います。
このあたりは手仕事の雑誌の編集者さんならではの、鋭い視点なのでは
ないかと思います。

さらに作品画像もとても綺麗です。
それぞれの作品で、良いところを上手く引き出されています。
掲載された作品は拙著に収録されていないものばかりなので、拙著を
お求めになった方でも楽しんで見て頂けると思います。

書店でお求めになれますが、私の手元にもお譲り出来る部数を用意して
います。
あまり多くはありませんので、ご希望の方はお早めにお申し付け下さい。

※おかげさまで私の手元にあるものは完売致しました。
購入をご希望の方は、お手数ですが書店等でお求め下さい。(11/24)


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筆が痩せる理由

ある教室の生徒さんから筆が痩せてしまったと、ご相談が
ありました。
よくよくお話をお聞きしますと、洗い方に問題があることが
わかりました。
筆の洗い方は度々ブログでもご説明していますが、改めてご説明
したいと思います。

絶対やってはいけないのが穂先を金具のところで折ることです。
金具に当たって毛がどんどん切れていき、穂先が痩せていきます。

これは薄め液で洗う時、中性洗剤で洗う時など様々な場面でやって
しまいがちですが厳禁です。

中性洗剤で洗う際には、穂先に洗剤を含ませて爪で穂先をほぐしながら
洗います。
この時に決して穂先を引っ張ってはいけません。
やはり毛が抜けて、穂先が痩せる原因になります。

いい仕上げにはもちろん技術が必要ですが、筆のコンディションが
悪ければそれなりの結果しか出ません。
筆に機嫌よく能力を発揮してもらうには、手入れの仕方、保管の
仕方次第で決まります。

今までなさっていた習慣は一旦忘れて、上記の方法を守ってみて
下さい。
きっと良い結果が出ると思います。


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「金繕いの本」が出来るまで 11

前回、校正の話をアップしました。
その直前まで悩んだのが、サブタイトルです。

タイトルの「金繕いの本」というのはブックデザイナーの平野さんの
提案で、企画がスタートしてすぐに決まりました。
シンプルな言葉の方がわかりやすくて良いという説明に、監修の原一菜先生
共々納得したからです。

しかしこれには販売上、問題がなかったとは言えません。
それは現在、陶磁器の修復というと圧倒的に「金継ぎ」と称する方が
ポピュラーになってしまっていたからです。
そこで内容を表すサブタイトルの重要性が強まりました。

最初の案が、
必ずできる成功の実例集
はじめてから本漆、ガラスなどの応用テクニックまで
はじめてから応用技術まで、これ1冊でわかる
でした。
今、読んでもカタイですね。

次に出たのが、
この1冊で応用までできる
はじめてでも必ずできる
割れた器がよみがえる
まだまだ内容を具体的に表そうとしています。

最後に提案したのが、
はじめてでも上手にできる
はじめての方から、しっかり学びたい方まで
うつわを直したいと思ったら
愛着あるうつわを蘇らせる
大切な器を蘇らせる
慈しんで直す大切な器
少し最終案の片鱗が出てきました。

決定した「大切なうつわを直したい」は、Y編集長の決断です。
私のあとがきの冒頭の文を読んで、これだ!と思ったそうです。
金繕いをやってみたいと思うきっかけは、これではないかと。
シンプルかつダイレクトに訴える文が一番力があるというのが、
Y編集長の考えです。

この考えは本当に的を射ていて、このところ受けた取材でも
このサブタイトルを流用されています。
それはこの言葉が印象的で力強いからではないでしょうか?

私もこのサブタイトルがとても気に入っています。
素直な気持ちが表現されているのはもちろんですが、自分が
忘れてはいけない原点を示してくれているように思うからです。


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接着の段差

接着の際、段差が生じてしまったら、それを補うように
作業して頂いています。

段差は気にしませんという方もおられますが、段差が生じている
ということは、釉薬で守られていない素地が出ていることなので、
実使用上は好ましくありません。

汚れ溜まりにもなり、衛生上もよくありませんので、しっかり
直されるのをオススメ致します。

はっきり言って段差に関しては「味だと思って」という目の反らし方
はよくないと考えています。

ただこの作業で悩まれる方が多く、このところ説明方法を試行錯誤
していました。
その結果、私なりに掴めてきた感じがあります。
悩まれている方は、一度教室でご相談下さい。


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「金繕いの本」が出来るまで 10

11月の声を聞いて、昨年は校正が終わって本の発売を待っていたなぁと
しみじみしてしまいました。

校正は文字校正と色校正があり、それぞれ複数回行います。
文字校正はその名の通り、文章のチェック、内容、レイアウトのチェックを
行います。

単純に自分が原稿を起こした物に問題がないかだけでなく、「ノンブル変更」
と言ってページ順を変えることもしましたし、想定より内容が多かったり
少なかったりするのを調整しました。

またブックデザイナーの方がレイアウトしてみて、ここに文章があったほうが良い
と原稿の追加もありました。

校正のための必須道具は、赤と青のペンと定規です。
この辺はドラマの「校正ガール」さながらでした。
ただ私は校正のルールは勉強しておりませんでしたので、Y編集長に
指示をあおぎながら作業しました。

色校正は画像のみのチェックです。
明るさ、トリミングなどを確認していきます。

それなりに時間がかかり大変な作業ではありましたが、今までWordの
文字列だけだった物が実際の本の状態になって見られますので、出版の
実感が一番湧いた作業でもありました。


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西登戸教室から 完成しました

10月よりスタートしました藤那海工房 西登戸教室の方々の
作品が完成しました。
いずれも以前から継続して下さっている方のものです。


まずはSさんの作品です。
余白を生かした絵柄が上品で、変形の形が印象的なお皿です。
いくつかひびが入ってしまっていたのですが、金彩が入った図柄
なので、仕上げが違和感なく見えます。

次はWさんの作品です。
お好きで集められている東洋陶器(現・TOTO)のカップです。
欠け自体は小さなものですが、クラシックな柄と合っていて
とても綺麗です。
このように小さな破損でも、直して新たな魅力を得るのが金繕いの
面白いところです。

先日講座をご見学に来られた方から「破損した器は縁起が悪いと
いうが、直せば問題は無くなるのですか?」と質問を受けました。
私は縁起が悪いというのは、使い続けると危ないという警告のため
ではないかと考えています。
夜、爪を切るといけない、というのと同じではないでしょうか。

金繕いが日本に発祥した背景には、物を大切にする気持ちがあります。
直して愛用するというのが日本人の心ですので、直した物に対して
縁起が悪いということはありません。

どうぞ安心して金繕いを初められて下さい。


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銀彩を戻す

セブンカルチャークラブ成田教室のHさんの作品をご紹介
致します。


破損としてはひびだけだったのですが、その修復過程で器の柄として
入っていた銀彩の丸い柄が削れてしまいました。

そこで削れてしまった柄を含めて銀泥で仕上げをして、他の丸い柄と
同じ硫化程度になるように人工的に硫化させました。
器全体を見て、違和感がなくなっているかと思います。

合わせて他の仕上げてこられた器も、ご紹介致します。


このスタンダードな仕上げは、難なくこなされています。
強いて言えばラインの描き方が、安定したいというところでしょうか?

Hさんは、他にも応用技術にチャレンジなさっています。
作業の進行が楽しみな方です。


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最初の教材

金繕いは、お金がかかる趣味だと誤解があるようです。
このところ教材に関してお問い合わせが続いてありました。

拙著でも材料は紹介していますが、金繕いの教室で初回にお配りして
いる教材です。
(2017年10月現在 ¥7,500)
費用のうち、ほとんどが金泥・銀泥です。

この他、絶対必要になるのがピンセットと仕上げ用の筆、特殊な形状の
カッターです。
これはご希望をお伺いして、必要な方だけ購入して頂いています。

あとは貝合わせのカリキュラムで、箔ハサミと平筆、金箔が必要になります。
消耗品の金箔はお求め頂きますが、道具は貸し出し用を用意しています。

以降は特別に必要になるもの以外、消耗品の新うるしや薄め液などを
無くなり次第お求めになるくらいです。
(金泥・銀泥以外は、¥500程度です)

使っているものは全て市販品です。
講師からしか購入出来ないというようなオリジナル製品は使っておりません
ので、ご自分で購入して下さった方が助かります。

またお手持ちの道具を持ち込み頂いても構いません。
他の金繕いの教室に通われていた時の道具や、他の工芸をなさっていた
際の道具をお使いになる方もおられます。

なるべくご負担のないように工夫しておりますので、安心して受講して
頂けたら幸いです。


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