カテゴリー別アーカイブ: 基本のき
カトラリーの塗り直し
先日アップしました本漆での塗り直しについて、ご説明したいと思います。
木製のカトラリーは大抵、ウレタン塗装という樹脂系の塗装で木部をカバー
しています。
これが使用によって剥がれてきて、見た目を損なうばかりか木部を痛める
原因になります。
塗り直しをする場合は残存するウレタン塗装を紙ヤスリで除去して、本漆を
塗り直していきます。
紙ヤスリは200番台から始め、出来れば600〜800番くらいまで使い、大きな
傷を残さない状態にしておきます。
塗り直しの初めに気になるのが、ひときわ色が濃くなる部分が出ることです。
これはウレタン塗装が使用でしっかり剥げてしまっていた部分に起こります。
それはより漆が染み込んでしまうからです。
あまり気にならないという方もおられるかもしれませんが、気になる場合は
色が濃くなってしまった部分を紙ヤスリで落としながら塗り直しの作業を
進めます。
2〜3回塗ったら紙ヤスリをかけて調整することを繰り返していると、全体が
同じような色味になってきます。
全体の塗り重ねは最低5回は必要と考えています。
塗り重ねる程、色は濃くなりますので(艶ありのものだと艶も出る)あとは
好みで調整されると良いのではないでしょうか。
こんなふうに使います
先日、リサイクル材料で治具を作った話をアップしました。
実際どんなふうに使っているのか、ご覧頂きたいと思います。
本漆で拭き漆の塗り直しをしている箸とスプーンです。
長辺側の材が少し高くなっているので、滑り落ちたりしないのが良いところ。
また室の中の湿度も通りやすいのも重要なポイントです。
器の場合です。
縁、高台部分に破損がある場合、表と裏の作業が同時進行で出来るようになり
ます。
いずれにしろ1点1点管理が出来るのが便利だと思っています。
こんな工夫をしているという方がおられましたら情報をお寄せ下さい。
ブログでご紹介させて頂きたいと思います。
焼き継ぎを仕上げ直す
産経学園ユーカリが丘教室のWさんの作品をご紹介致します。
骨董市で購入された焼き継ぎの器を仕上げ直されました。
焼き継ぎとは江戸時代の修復方法で、ガラス質の成分を加熱して破損を
接着したものです。
一見、接着剤にも見える透明〜半透明の物質で接着されています。
難点は見た目が良くないこと。
ミミズ腫れとも揶揄されるくらい酷い仕上がりのケースもあります。
しかしそれが故に安価になっていることが多く、気に入った柄や形なら
お買い得と言えます。
また江戸時代の一時期にしかなされていない手法なので、焼き継ぎがされて
いるということは江戸時代に作られたものという証明にもなります。
Wさんの作品はミミズ腫れの部分を加工し、改めて金泥で仕上げをされました。
綺麗になって使う時の気分も良いかと思います。
焼き継ぎの直し方には他にも方法があります。
物の状態とお考えで方針が決まりますので、着手前にご相談下さい。
漆繕いの抹茶茶碗
私が金繕いをご依頼頂いた赤楽茶碗をご紹介致します。
本漆で作業を行なっています。
ある著名な陶芸家の作品なのですが、桐箱ごと敷居の上に落としてしまわれた
そうで、ズレが生じたひびが入っていました。
ご希望は繕いをしたことがわかりにくい「漆繕い」でした。
漆繕いとは現在、金繕い(金継ぎ)といっている陶磁器の修復方法の原点で、
欠損の直しから仕上げまで漆のみで行う手法です。
ひびをしっかり止めた後、ズレを解消して仕上げの漆を調合しました。
本漆は新うるしと違って固化後の色の変化が大きいのです。
お茶碗自体も場所場所で色が違いますので、何度も塗っては確認を繰り返し
ました。
さらに色が合ったところで途中にあるグレーの斑紋も再現しています。
先般、ご依頼主にお目にかけたところ大変気に入って頂き、無事返却が完了
しました。
やはりお返しした時に喜んで頂けるのが、何よりのご褒美ですね。
金箔貼り応用
新型コロナウィルスの感染が拡大傾向にあり不安な日々が続いておりますが、
ブログでは敢えて今まで通りの内容でアップしたいと思います。
今日はNHK文化センター柏教室のUさんの作品をご紹介します。
カリキュラムで行なったハマグリ貝への金箔貼りを応用したものです。
元々は茶托だったのではないかと思われますが、真ん中のくぼみに布きせと
言われる補強がしてありました。
これは意匠的なものもあると考えます。
Uさんはこちらを画像の右上に写っているウサギの置物の飾り台にしたいと
金箔を貼られました。
技術的には先般ご紹介しました金箔を貼ったお皿と同様に出来ますが、難しい
のは本体が漆器なので修正に注意が必要になることです。
このあたりはちょっとしたテクニックが必要になります。
結果は画像の通り大変綺麗に完成しました。
貝合わせの制作で残った金箔を、このように応用すれば楽しい作品になるかと
思います。
是非参考になさって下さい。
筆に癖をつけない
ある程度の時間使い続けた筆は、薄め液に長い時間浸し続ける必要が
あります。
ただ薄め液の瓶にそのまま筆を入れてしまうと、穂先が曲がって癖が
付いてしまいます。
NHK学園市川オープンスクールのKさんがとてもいい工夫をされていたので、
ご紹介します。
薄め液に丁度よく穂先が浸る位置で止まるようにクリップで止めている
のです。
この方法だと穂先に癖がつかずに長い時間浸しておけます。
実は穂先のコンディションが悪くなる原因は、筆の洗い方が不足している
ためなのです。
長く線が引けないとか、穂先が割れてしまうとか、そんなことに心当たりは
ありませんか?
穂先に何となく粘り気があったり、根元に固まりがあったりするのです。
酷い場合は穂先からボロボロと固まった新うるしが出てくることがあります。
このような状態はある程度の時間、薄め液に漬け込んで、しっかり台所洗剤で
洗い直すと復活します。
そのためにはこの筆の固定方法は大きな助けになってくれると思います。
金箔貼り皿
カルチャープラザ公津の杜教室のSさんの作品をご紹介致します。
1日講座などで行なっている「金箔貼り皿」を制作して下さいました。
こちらはシンプルな構成で金箔を貼るというカリキュラムです。
構図を検討して頂く際に黄金分割の手法も学べる一石二鳥の内容です。
金箔が映えるので晴れの日のテーブルには最適です。
Sさんの作品もシンプルな構図ですが、これにお食事を盛って頂くと
華やかになるのではないかと思います。
金箔貼り皿は通常の教室ではなかなか実現しませんが、ある程度やって
みたいという方がまとまればリクエストにお答えしています。
もう1点は小さい猪口の割れの接着です。
全体は金泥で仕上げられていますが、染付の人物の部分は銀泥に変えて
あります。
銀泥が流下してくると馴染んで目立たなくなります。
人物をまたがる破損は痛々しい感じがしますが、馴染ませるようにすると、
その感じが緩和されます。
公津の杜教室は以前のセブンカルチャークラブからカルチャープラザへ
リニューアルされました。
以前と変わりなく講座を行なっております。
新規の受講も承っておりますので、ご検討宜しくお願い致します。
パーツが足りない
器が割れた時、どんなに回収を頑張ってもパーツが足りないことが
あります。
実は意外にも大きなパーツが足りないのは問題にならないのですが、
厚みを形成する間が足りないというのは注意が必要です。
上の画像は現在、私が金繕いでお預かりしているお皿です。
裏面から見るとパーツが揃っているように見えるのですが、間が随分
足りません。
今回の場合、パーツの安定感が良かったので接着が可能でしたが、不安定な
場合は工夫が必要です。
どういう状況なのかで対応策が変わりますので、接着の作業を始める前に
必ず仮組みをしてパーツの過不足、安定感を確認して下さい。
「多分大丈夫」で踏み切ると後のリカバリーに苦労します。
硫化で出る味わい
先日に続きNHK学園市川オープンスクールのKさんの作品をご紹介
致します。
徳利の口縁が欠けたのを金繕いされました。
欠けたところを埋め、銀泥で仕上げてあります。
欠けた範囲が大きく、目立ち過ぎる可能性が高かったのですが、銀が渋く硫化
ことで元々の釉薬に馴染み、自然な感じに仕上がりました。
仕上げ次第で完成の印象が変わります。
どのような感じを望まれるのか、ご自身のものなのか、お預かりのものなのか、
勘案すべき要素を合わせてお考えになるのが良いかと思います。
最近は金銀をブレンドしたもの、銀を人工的に硫化させてあるものなど、販売
されているもので変化をつける方も多くなりました。
悩まれるようならばサンプルを作っておりますので、ご相談下さい。
鯛牙 自作する
カルチャーセンターの教室がお休みになってしまい、時間が出来ました。
せっかくだから有意義に過ごそうと、なかなか手が回らなかった作業を
することにしました。
まず製作したのが「鯛牙」です。
本漆の仕上げで丸粉を使った場合、磨きに使う道具です。
市販されてはいるのですが、高価な道具です。
お求め頂くのが忍びないと思っていたところ、有難いことに生徒さんから
顎の骨付の鯛牙を頂戴しました。
短時間で作ったので、以下の手順で簡単に作っています。
1.顎の骨から牙を切り出す
2.竹棒径6mmを牙の根元が埋まる深さの穴をあける
3.接着剤で牙を接着する
4.隙間をパテで埋める
5.補強に糸を巻く
ご自分で作ってみたいという方は、まず天然の鯛(全重量が3kg以上は必要)
の顎の骨を入手下さい。