二の字型のひび

私が金繕い(仕上げ)をご依頼頂いたカフェオレボールを
ご紹介致します。


ボール部分にひびが2箇所、高台に複数の欠けがありました。
仕上げとして工夫したのが、紺のラインに差し掛かっている
ところは薫銀泥で、地の乳白色の釉薬の部分は銀泥をわずかに
硫化させたところで色止めを行いました。

問題は縁にあった「二の字型のひび」です。
この不思議な形の欠けは破損した時の衝撃が今ひとつ弱く、欠けに
至らないでひびとなったものです。
決して珍しいものではなく、かなり頻繁に見受けられます。

「問題は」と言ったように、この破損は見た目が良くないのが悩ましい
ところです。
器に何らかの図柄が入っている場合は同様の柄で蒔絵して隠すのが
常套手段ですが、今回のご依頼品はラインが入っているだけなので
いつもの手段は使えません。

苦肉の策ですが、ラインに差し掛かった傷は薫銀泥で蒔絵し、地の
部分の傷は銀泥を少し流下させたところで色止めしました。
つまり二の字の上下で仕上げた金属粉の色が違う訳です。

一応ご依頼主の方の了解は取りましたが、現物を見て頂いて最も目立た
ない作戦としてご理解頂けました。

金繕いの姿勢として器本来の姿を損なわないというのがあるかと思います。
とかく思い切った改変を求めてしまいがちですが、器が日常で使うもので
あれば、若干引き算と感じるくらいの方策が正解なのではないかと考えて
います。


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