カテゴリー別アーカイブ: 基本のき
薫銀泥
NHK文化センター柏教室のA さんの作品をご紹介致します。
柏教室の日曜午後クラスでは薫銀泥の仕上げが流行っています。
Aさんも薫銀泥の色を効果的に使った仕上げをなさいました。
まずは急須の蓋です。
表は割れの線通りに仕上げられ、内側は補強の大きい面の仕上げになって
います。
これに薫銀泥を使って急須自体の釉薬の色に合わせられました。
違和感のない渋い仕上がりです。
こちらは片口なのですが、画像ではどこが欠けたのかわからない程
馴染んでいます。
薫銀泥とはその名の通り、銀泥を人工的に燻して硫化させたものです。
様々な色がありますが、今回ご紹介した色はガンメタリックの感じの渋い
色です。
Aさんの作品のように馴染ませる他、釉薬の景色に合わせるなどの活用方法も
あるかと思います。
ご興味のある方はまず色味の確認をお勧め致します。
トクサの収穫
このところトクサについて、ご質問が増えてきたので、改めてご説明
しようと思います。
トクサの収穫ですが、寒気に当たった方が良い道具になりますので、
もうしばらく待たれるのをお勧め致します。
2〜3月から新芽が出る直前の4月までは収穫出来ます。
しっかり根元から切り、広げて乾燥するのが肝要です。
ドライフラワーのように束ねて干すと、カビてしまったと以前ご報告を
受けております。
大体1週間干すと含んでいた水気が乾燥し、道具になります。
この時、緑色が残っていても構いません。
よく確認されるのが先端の枯れている部分を採取すればいいのか?という
ことです。
このご質問への回答は否です。
実際お使いになられるとお分かりになりますが、植わっている段階で既に
枯れているということは劣化しているということです。
道具としては全く使えず、ボロボロと崩れてしまうはずです。
根元から刈り取ってしまうと、ご不安になるのが再生です。
これもご心配ありません。
春になると新たに新芽が出てきます。
刈り取ったところからは伸びてはきません。
拙著「金繕いの本」をお持ちの方は90ページをご覧下さい。
実際の使い方なども詳しく解説してあります。
筆に印をつける
最初の教材で筆は2本からスタートしますが、必要に応じて増えていきます。
中には似たような筆もあり、何の為の筆なのかわからなくなってしまう方も
おられます。
そこで港北カルチャーのTさんの工夫をご紹介致します。
金泥用、銀泥用と分けた蒔筆の場合です。
軸の尾部に金銀のテープを巻き、一目でわかるように工夫されています。
ちょっとした工夫をするだけで作業の効率が上がると思います。
Tさんの方法を参考に、ご自分のやり方を見つけられてはいかがでしょう。
共通色
NHK文化センター柏教室のMさんの作品をご紹介致します。
元々の器の柄と仕上げが呼応している好例です。
小皿の角が鳥脚状に割れたものを接着されました。
元々のお皿の柄に金が入っていましたので、仕上げの金泥が自然に
見えます。
このところ作品例で柄を利用するというものを多くアップしましたが、
色が合っているだけで十分共通性が出て違和感がありません。
敢えて奇を衒わなくても素敵に見えます。
まずはスタンダードにから初めてみましょう。
器の柄を使う
NHK文化センター柏教室のYさんの作品をご紹介致します。
大皿の欠けを金繕いされました。
縁に小さな欠けがあるだけだったのですが、単純に欠損通りに仕上げて
しまうと、お皿の大きさに比して小さい為、逆に目立ってしまう恐れが
ありました。
そこでご提案したのがお皿に元々絵付けされている葡萄の柄を使うこと
でした。
まずはお好みの柄をお皿からトレースして頂くことから始まりますが、
必要最低条件として欠損がしっかり隠れることが大事です。
その他、見栄えも考慮して入れ方を決定し、金泥で蒔絵されました。
昨今、金繕いでも何らかの柄を蒔絵する方が多くなってきましたが、
何となく自分の概念で描かれた柄で納得のいかない結果に悩まれて
いるのではないでしょうか。
ご自分の概念でもどきの蒔絵をするよりも、器自体の柄を利用された
方が完成した時の一体感があります。
Yさんのお皿は亡くなったお母様の愛用品だったそうで、ご兄弟と
お母様が喜んでいるとお話になったそうです。
こうしたエピソードをお聞きすると、お手伝い出来て良かったと
私自身の喜びも深まります。
トクサの準備
トクサを使うには20〜30分水に浸す必要があります。
講座にお出でになる場合、教室にお入りになってから水に浸して
いると時間が勿体ないと思われるのではないでしょうか。
NHK文化センター千葉教室のMさんがとてもいい方法でトクサを
お持ちになっていたので、ご紹介致します。
小さなタッパーウエアにびしょびしょに濡らした化粧用コットンに
包んでトクサ1節1節を入れて来られているのです。
ご自宅からお持ちになって教室に入る頃にはちょうど使い頃になっている
そうです。
私が教室で乾いたままのトクサを仕方なく使うことが多く、生徒さんの
中には水に浸さなくてもいいと覚えてしまった方もおられます。
しかし冬の乾燥した時期はすぐにバラバラに砕けてしまって、いくらも
使えないことがお分かりになるかと思います。
加えて磨いた面に引っかきキズがついてしまうことがあり、仕上げの状態に
影響が出ます。
乾燥したまま使うのは決していいことではないのです。
ぜひMさんの方法を参考にして頂き、教室でもしっかり水で柔らかくなった
トクサをお使い下さい。
絵になる割れ方
産経学園ユーカリが丘教室のTさんの作品をご紹介致します。
小さいお猪口の割れの接着です。
度々お話しているように、器の割れ方というのは人間の考えることを
上回ってくることがあります。
Tさんのお猪口もその例で、左右対象だったり山型だったりと、とても
不思議に感じます。
Tさんは割れたままを尊重して仕上げられていますが、このような面白さを
生かして頂くのが金繕いの本道だと思います。
二度と取れない
ある教室で生徒さんが持って来られたお抹茶茶碗に二度と取れないシミが
出来ていました。
お茶碗自体の作家の方が著名な方であるのは勿論ですが、このシミの原因に
なった金繕いをなさった方も著名な方だということです。
表には金繕いされた金の線が残っていたのですが、内側の金の線は茶筅で掻き
落とされたのか、すっかりなくなってしまっていました。
残ったのが、このシミです。
恐らくひびにテレピン油などで希釈した生漆を染み込ませた結果だと思います。
素地、釉薬共、軟らかい質の陶器だったので、広がってしまったのでしょう。
以前に比べ金繕い、金継ぎをなさる方がとても多くなりました。
いずれの方も試行錯誤されているのが陶器の染み込みだと思われます。
様々な対処方法が提唱されています。
私共では「目止め」と言い、米の研ぎ汁を使う方法をお勧めしています。
どのような方法を取るにしても、ひびの中に入った漆類は二度と除去することは
出来ません。
画像のようにシミとして広がってしまったら、仕上げで隠すしか手段はなくなって
しまいます。
広がってシミとなったものを「味わいとして」という言葉で隠していいもので
しょうか。
持ち主の方の気持ちになれば、とても言えるものではありません。
お持ちになられたお茶碗を拝見して、お教えするにしても、ご依頼を受ける
にしても真摯に取り組もうという気持ちを強くしました。
鯛 復活
NHK文化センター千葉教室のSさんの作品をご紹介致します。
鯛型をした漆器のお皿の塗り直しです。
とぼけた表情が愛らしい鯛ですが、顔周辺の漆がはげてしまっていました。
Beforeの画像を撮らせて貰えば良かったのですが、かなりボロボロになって
いました。
それをしっかり埋めて塗り直したところ、どこが破損していたのかわからなく
なってしまいました。
Sさんは欠損を埋めている最中はどうなるのか不安になられたようですが、
元々の色と同じ漆を仕上げで塗ったところで全く違和感がなくなりひと安心
なさったようです。
全体を写した画像に布が写っていますが、これはSさんが専用の袋を仕立てられた
ものです。
これをご覧になるとSさんの喜び具合が察して頂けるのではないでしょうか?
漆器の繕いは基本的に元々の漆の色と合わせて塗り、欠損をわからなくします。
欠損部を加飾する方法もありますので、ご希望と合わせて修復前にご相談させて
下さい。
本漆の仕上げ
藤那海工房 本漆クラスのOさんの作品をご紹介致します。
お皿の割れを接着されました。
本漆の仕上げでは丸粉という金塊をヤスリで擦り下ろして丸めた粒状のものを
蒔いて頂いています。
それを生漆で粉固めして、鯛牙と紙やすりで磨き上げて頂きました。
あまり磨き過ぎず、渋めに上がったのもお皿の絵柄に合っていて、素敵に
仕上がったと思います。
本漆は釉薬への活着が悪く、絵柄を入れたい場合は釉薬を荒らすか、ガラス用
漆を使用することになります。
相変わらずガラス用漆に抵抗がある私は、自ずと仕上げは欠損通りになります。
ただこの辺はお考え次第なので、本漆でも加飾をなさりたい場合は、ご指導して
おります。
また丸粉を使用すると耐久性は高くなりますが、必然的にコストが高くなります。
後々の変色を承知の上で真鍮や錫などの安い金属粉を使用するか、消粉と呼ばれる
箔を粉砕したものを使う方法もあります。
消粉の場合は耐久性が低いことを承知しておく必要があります。
Oさんの作品を見て、せっかく本格的にこだわって本漆を使われるのなら、粉固め
が出来る丸粉がいいのではないかとしみじみ考えています。