カテゴリー別アーカイブ: 基本のき

筆が割れる原因

昨年12月にご質問が多かったのが、筆が割れるというものです。
これは以前のブログにも書いているのですが質問が続いたので、
再度説明したいと思います。

ズバリ原因は筆の洗い方が足りないからです。
穂先の根元に漆の成分が残って固まっており、筆を割れさせるのです。
割れてしまうとご質問頂いた方の筆を確認させて頂くと、例外なく
穂先の根元に粘り気を感じます。

場合によっては筆の毛1本1本にまとわりついている弁柄が細い毛の
ようにパラパラと落ちてくる方もおられます。

しかしこれで筆が駄目になってしまうわけではありません。
再度徹底して穂先を洗浄すれば、復活します。

まず薄め液に15分以上、漬け込んで下さい。
その後、画像のように根元を揉みます。


それから通常通り台所洗剤でしっかり洗って頂ければ完了です。

仕上げ用の筆は大切に使えば10年以上持ちます。
メンテナンスにも気配りをお願いします。


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ワイングラスの接着

港北カルチャーセンターのMさんの作品をご紹介致します。
ワイングラスの接着です。


かなりガラスの厚みが薄いワイングラスが割れていたのを接着し、
欠損を埋めて、金箔で仕上げて頂きました。
金の線しか見えないので、見た目も綺麗に仕上がっていると思います。

透明のガラスの場合、破損を埋めているのが見えてしまうのが最大の
難問です。
その他、ガラスならではの注意事項がありますので、必ずそれを確認
してから作業を始めて下さい。

これはガラスに限らず金繕い全般に言えることですが、同じように
見えても、工程も同じとは限りません。
同じ受講生の方の話が自分の器の金繕いに使えるとは限らないのが
金繕いの面白さであり、難しさでもあります。


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目止め 都市伝説?

先般「目止め」という下準備が、他の作業と混同されやすいという
ブログを書きました。
それと同時に「なぜ行うのか」「どういう場合なら行わなければなら
ないのか」という条件も理解が難しいようです。

「目止め」とは陶器の断面に米の研ぎ汁を使って撥水性をつける方法です。
撥水性をつけないまま金繕いの作業に取り掛かると、接着は着きませんし、
ひび止めではシミが出来てしまいます。

しっかり洗って完璧に乾燥してあれば「目止め」の必要はない
使用していない新品の器の破損であれば「目止め」の必要はない
磁器も「目止め」を行う必要がある

上記の3つは「目止め」に関する誤った認識でよくあるものです。
いずれも何故「目止め」という作業が必要なのか理解されていないが故の
間違いです。

確かに「目止め」の作業は手間がかかるので、回避されたい気持ちはわかります。
しかし行っていなければ2度と取り返しのつかない事態にもなります。
逆に言えば行ってあれば不本意な事態から器を守ってくれる魔法の方法でも
あるのです。

是非、何のために行うのか、ご理解頂いた上で作業に取り掛かって下さい。
拙著「金繕いの本」のP.24に、詳しい手順を掲載しております。


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運搬兼用の室

工房で本漆の受講を始めた方が、とても良い工夫をされていたので
ご紹介致します。
持ち運び兼用の室です。

大きなダンボール箱の中に小さいダンボール箱を伏せて入れてあります。
それをお持ちの器に合わせてくり抜き、器をセット出来るようになって
います。
これで安定して器を持ち運び出来ます。

ご自宅では湿らせたタオルを入れて、このダンボールがそのまま室に
変身するそうです。
これは工房まで車でお出でになるメリットを最大限に生かした方法でしょう。

当工房ではスペースの関係上、器はお預かりしておりません。
しかしお持ち帰りになって頂くことで、ご自身で漆を固化させる方法を
覚えられます。
また接着の際にもズレないようにしっかりチェックが出来ますので、完成度
も高まると考えています。


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お納めしました

先日お納めした金繕いの依頼品を、ご紹介致します。

まずは練り込みのお皿です。
かなりバラバラに割れてしまっていました。

練り込みとは色の異なる粘土を練り合わせて模様を作る技法のこと
で、金太郎飴を想像してもらえばわかりやすいと思います。

お預かりしたお皿は、練り込みが小花柄のように見える可愛らしいものです。
これに金泥の仕上げがとても映えました。
破損上、仕上げが太くなってしまったところは、練り込みの線が続くように
銀泥でラインを入れてあります。
これが持ち主の方に好評だったそうで、一安心しました。

次もお皿の割れです。

こちらは直径25cmほどの陶器です。
仕上げを釉薬の感じに合わせて硫化した銀箔を使いました。
1箇所だけ、黄色の斑点のところは金箔に変えてあります。

どちらもちょっとした工夫ですが、程よく馴染ませた感じが成功して
いるのではないかと思います。


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拭き漆大会拡大中

よみうりカルチャーセンター大宮教室での拭き漆大会は継続・
拡大しています。
それぞれの方で気に入った木地を探されて、挑まれています。

木地の入手先ですが、探しやすいのは漆材料のお店だと思います。
木地を専門にしている業者さんもおられますが、ネットで検索しやすい
という点では漆材料店になるかと思います。

拭き漆向きと明記されている場合もありますが、木目が綺麗なものを
選ばれるのが良いかと思います。
ケヤキを思い浮かべて頂けるとわかりやすいのではないかと思いますが、
他にも木目が美しい樹種はありますので、お好みのものを見つけて
みて下さい。

漆を塗り重ねる度に、どんどん美しさが増すので、ハマってしまう方が
拡大中です(笑)


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目から鱗の質問2

昨日に引き続き、目から鱗の質問です。
金繕いの講座の見学にお出でになった方から「使えますか?」と
質問がありました。

この質問にはとっさに「使うために直しています。」とお答えして
しまったのですが、よくよくお話を聞くと仕方のない質問だった
のです。

というのもこの方は割れた器を瞬間接着剤で接着されていた為、何度も
剥離してしまうことを繰り返されていたのです。

拙著「金繕いの本」にも記載していますが、瞬間接着剤で接着してしまうと
不本意な形で接着されてしまうので、剥離して金繕いした方が綺麗に
仕上がります。

もう一つの問題が、見学に来られた方が体験したように剥離することにあります。
これは接着剤全般が耐熱温度が60度しかないからです。
よって熱い飲み物を入れる器に顕著に現れます。

剥離する度に接着し直していると断面に接着剤の残りが蓄積し、ますます
接着強度が落ちます。
これは悲しい話です。
「使えますか?」というご質問が出るのも当然です。

「また使いたい」というのが金繕いの原点です。
その言葉に改めて気がつかせてくれた質問でした。


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目から鱗の質問1

最近、目から鱗が落ちる質問を受けたので、ご紹介したいと思います。
いずれも金繕いに詳しくはない方からの質問です。

まず受けたのが「漆が塗料として使われるのは理解出来るが、接着剤、
充填剤として使われるのは理解出来ない。」というものです。


NOA 錆漆の硬化した状態

当たり前のように思っていたので、この質問を受けてびっくりしてしまった
のですが、現代の物は塗料は塗料ですし、接着剤は接着のみ、充填剤の
パテはパテとしか使われません。
1つの物が別の用途に変化するというのは、確かにないのです。

お答えしたのは「接着剤、充填剤として使う場合は、何らか別のものを
混ぜて使います。」だったのですが、さらに困惑した顔をされてしまいました。
そうです。
例え別の物を混合するとしても、現代のものではそのようなものはないからです。

本漆の説明をする時に「史上最強の塗料」とお話しますが、単純に質が強いと
いうだけでなく、変幻自在というところにもあるかもしれません。

化学的なものが一切ない縄文時代から日本人は漆を活用してきました。
何千年と時間をかけて有効な方法を見出してきたことを思うと、感慨深いものが
あります。


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琉球漆器の直し

琉球漆器は「堆錦」(ついきん)と呼ばれる盛り上がった意匠が
特徴的です。
この盛り上がり部分は漆と顔料を混ぜ合わせ、硬い粘土状にして
から伸ばし、漆器本体に接着します。

しかし本州の気候に合わないところがあるのか、ごっそり剥離する
場合があります。

剥離してしまった部分をどうしたいのか、お考えによって修復の
仕方が変わります。
まずは手をつけない状態で教室にお持ち下さい。


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マルセル・デュシャンと日本美術展

原一菜先生お勧めの「マルセル・デュシャンと日本美術」展を見てきました。
マルセル・デュシャン(1887-1968)は伝統的な西洋芸術の価値観を大きく
揺るがし、20世紀の美術に衝撃的な影響を与えた作家です。

あいにく作家の認識がなかったのですが、「自転車の車輪」「泉」といった
代表作は記憶にありました。


自転車の車輪


これら「レディーメイド」と呼ばれる大量生産の工業製品を使った作品の前は
油彩で印象派やキュビズムの絵を描いていました。

その後、チェスのプレイヤーと「ローズ・セラヴィ」という女装家の2つの顔を
持って、画像や広告の作品を発表します。
そして最後は「遺作」と題された扉の覗き穴からのぞくジオラマの作品に
終着します。

レディーメイドの作品など、現在の前衛芸術に見慣れた私達には珍しくない
かと思います。
マルセル・デュシャンの素晴らしいのは、100年前、まだ日本が大正時代
だった頃にこれをやってのけたことです。

「芸術」ではないような作品をつくることができようか
美術は見るんじゃない。考えるんだ。

という言葉が紹介されていますが、デュシャンは考える人だったのだと思います。
工業の始まりで建築、音楽、美術は変化を余儀なくされます。
キュビズムの次に美術はどこへ行くのか、その先鞭を切ったのがデュシャン
だったと解釈しました。
時代が生んだ寵児。天才です。

まるでレオナルド・ダビンチのスケッチを見るような展示がありました。

同じ上野公園内で開かれているフェルメール展とは対極かもしれません。
ちょっと刺激を受けてみたい方はお薦め致します。
東京国立博物館で12月9日まで。
デュシャンの観点に合わせた日本美術の他、本館にも優品が展示されています。


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